押し花で笑顔に

8月の暑い盛りの頃、一人の女性のお客様がご来店されました。ユリの花をご覧でしたので、ユリがお好きですか?とお尋ねすると、実は愛犬が14歳で天に召され、今まだ家にいるのでお花を飾ってあげたいと…涙ながらに辛い気持ちをお話し下さいました。

そして店内に飾ってある私の押し花の額を見て、お花をこんな風に残せるんですねと、愛犬のためにお友達から届いたお花を押してもらえませんかとご依頼を受けました。

 

フラワーアレンジメントで届いた数は何と9個。どれだけ愛されていたワンちゃんなのか想像が出来ました。

その一つずつのアレンジの1輪でもいいから残したいということで、まずはお花を持ってきていただいて状態を見てできるかどうか判断させていただくことになりました。

早速お持ちいただいたお花は、猛暑の中、数日経っていたため、萎れかけたものや、押すのが難しい白の菊やユリなどで正直不安でしたが、どんな押しあがりでもいいので、どなたに頂いたかわかるように残したいということで、思い出に残したいという思いを感じましたので、できる限りのことをします。とお引き受けしました。

 

真空にする技法で2枚の額に収めることになり、まずは押すことから始まりました。

どなたに頂いた花かお名前が付いたものを写真に撮り、間違えないよう慎重に押しました。

仕事が終わって自宅に帰り、夜中の作業で寝不足の日々でしたが、できるだけ綺麗に残せるよう丁寧に作業しました。

やはり萎れかけた花は難しく、それなりの仕上がりでしたが、それもまた味があるということで、そのまま入れることになりました。

ちょうどお盆休みを頂いている間に追加で届いたお花はご自身が新聞紙に挟んで押されたということで、厳しい状態でしたが、そちらも入れたいとのご要望でしたので、工夫して組み立てて入れることになりました。

 

お花を何度かに分けて持って来て頂き、押しあがりを確認して頂き、額を選び、背景の和紙の色を選び、お花と一緒に入れるお写真を持って来て頂き、メッセージのフォントや大きさを決め、最終的なデザインを確認して頂くまで、何度も何度もご来店頂きました。

その間に少しずつ笑顔が見られるようになり、少しずつお元気になられたような気がして、そんなお手伝いができて嬉しかったです。

私自身はペットを飼ったことがありませんが、その死がどれほどに辛いものなのか…思い出を話して下さったりお写真を見せて頂いてその辛さを感じることができました。

その後もたまたま友人の愛猫ちゃん、愛犬ちゃんの死を間近で聞き、ペットの存在の大きさを感じました。大事な家族ですね…。

 

慎重に慎重を重ねて作業し、真空にする作業にかかりました。代わりの花が無いため、失敗が許されないので、人生で何番目かの緊張をしながらの作業でした。何とか無事に額に閉じて仕上がりました。写真に撮り頂いた方のお名前を印字して裏に付けて完成しました。

 

お渡しの日、ご主人とお二人で取りに来られて、とても喜んで頂きました。

悲しみが癒えるまで、まだまだお時間がかかるとは思いますが、この押し花の額を作ることで、何度も足を運んでいただき、少しずつお気持ちが落ち着かれていったように思いました。

またお花の持つ力を感じ、微力ながら少しでも笑顔になって頂くお手伝いが出来て嬉しいお仕事でした。